夜、眠りに落ちそうな時間にスマホが揺れました。
なにか通知がきたようです。
「ヤケはありますか。」
フリマアプリで、私が出品した漫画20冊セットにこんなコメントがつきました。
「はて?ヤケとは…?」
コメント主は、さも当たり前のように聞いてくるので、フリマアプリ専用用語かもしれないと思い、コメント主に聞くよりも先に、寝ぼけながらもググってみました。
太陽の光で日焼けしたり、経年劣化によって、紙の表面が黄ばむことを「ヤケ」と呼ぶようです。
「ヤケはありますか?」と聞いたコメント主が言いたいことは、
「あなたの本は色褪せていませんか。
色褪せ部分があるなら本を横から上から下から見える写真をとって掲載してください。」ということのようです。
私は本は読めたらいいものとしか思っていなかったので、あまり「ヤケ」について気にしたことがありませんでした。
私は、むしろ「初版本」であることのほうが貴重だと思っていました。
そのため、発行年数がわかる奥付部分と希少性が高いと思われる帯を丁寧に撮影し、その写真を掲載した商品ページをせっせと作っていました。
確かにコレクターからしたら、本は新しくてキレイなほうがいいですもんね。
もそもそと布団から出て、漫画のヤケを確認することにしました。
アニメ化した漫画の原作で、現在放送中のアニメ人気も上々だったのでそれなりに高く売れると見込んでいました。
そしてすぐに売れるとも思っていたため、梱包まで済ませていました。
残念ですが、段ボール箱をあけて、プチプチに包まれたビニールに貼られたマスキングテープをそっとはがしました。
商品説明ページの写真はあまり加工せずに自然光で撮るように心掛けていましたが、買おうか迷っているコメント主が待っているのかと思うと、そうは言っていられないので、夜中の蛍光灯の下での撮影会が始まりました。
写真写りは最悪で、段ボールを背景に撮影した漫画は、それまでも乱雑に扱われたような印象を残し、漫画の紙も実物よりだいぶ黄ばんで見えます。
これは、売れるものも売れないな…と覚悟しつつ、写真をアップしました。
案の定コメント主は、そっと去り、薄暗い写真だけが残されることになりました。
強気に設定していた価格を相場より低めに設定し、ヤケのある【訳アリ】の商品として、毎日値下げしていく中、ようやく買い手がつきました。
いよいよ色褪せた初版本20冊が旅立つときがきたようです。
他の方が出品している同じ商品ページを見て、「ヤケあり」「ヤケなし」と書かれていることに気が付きました。
どうやらコレクターだけが買うわけではないようです。
私のもとを旅立った本は、読まれた後、きっとまた商品ページに並ぶのでしょう。
レンタル品のように、色々な人の手元を渡り歩くことになるなら、初版かどうかよりもヤケのないキレイな状態を保つ方が価値がありそうです。
滞在時間はできるだけ短く、色褪せるよりも前に足早に、また旅立ちます。
ここは、図書館でも、本屋でも、古本屋でもない早いサイクルと価値観のフリマアプリという世界なんだなと、洗礼を受けた出来事でした。
では~