転がるメロンパンを追いかけたことはありますか?
メロンパンじゃなくて、おむすびだったとしたら、おむすびころりん、すっとんとんと、ねずみの住む穴に落ちていくところですよね。
「逃げ出したパンケーキ」という、ノルウェーの童話があって、タイトルどおりパンケーキが逃げ出してころころと転がっていくお話です。
こどもと図書館に行ったとき、初めてそのお話を知りました。
パンケーキが逃げ出すなんて、メルヘンワールド全開だな…なんて頭のどこかで思っていたのですが、そういえば似たような出来事があったのを思い出しました。
高校を卒業して、家の近くのパン屋さんでアルバイトをしていたことがありました。
「パンを作るのと、食べるの、どちらが好きですか?」
と、面接で聞かれたとき、
「食べるのです!」
と、自信満々に答えましたが、無事に採用されました。
もちろん、作るスタッフではなくて、接客スタッフとして働いていました。
パンの名前と特徴はもちろん、レジやお店の閉店時など、はじめは覚えることがいっぱいでしたが、新作を一番に試食することが出来たりと、楽しい一面もありました。
家の近所だったため、たまたま小学校以来の友達や、友達のママさんが買いに来てくれれることもありました。久しぶりすぎて、懐かしいやら、気まずいやらバタバタと忙しく毎日を過ごしていました。
そして、事件は起こるのです。
ある日、メロンパンを買ってくれたお客さんがいました。
レジをしたり、パンを袋に詰めたりと、慣れてきたころの出来事でした。
袋詰めの際、トングで取り損ねたメロンパンが、勢いよく転がって、トレイを超え、カウンターを超え、床の上を回転して逃げ出しました。
転がるメロンパンをトング片手に追いかける店員の私。
メロンパンは、お店の壁でやっと止まりました。
まだ、在庫があったのが救いでした。
お客さんに謝って、新しいメロンパン交換することができました。
でも、床に転がったメロンパンは廃棄するしかなくなってしまいました。
さっきの童話ではラストは動物が食べたことになっていました。
メルヘンワールドなんかではなく、現実味溢れる、そしてフードロス精神にもつながっているなかなか奥深い話だったのかもしれません。
もたもたしているレジ打ちの人、お客さんが見ている商品の前で品出しをはじめる店員さんに、イライラすることはありませんか。
お仕事をしている以上プロとして見られるのは、当たり前なのですが、私にはメロンパンを追いかけるパン屋さんだった過去があります。
決して人の手際について言える訳がありません。
それなのに、そんな過去があったことをすっかり忘れてしまっていました。
「まったく、人間は勝手だなぁ」
と、あのときのメロンパンは、ため息をつきましたとさ。
おしまい。