改札を出て、地上へ続く階段を上るとき、目の前の靴のかかとに大きなイチョウ葉がベッタリとくっついていました。
サラリーマン風の男の人の黒い紳士靴には全く似合わない、自然の黄色。
幼稚園のおどうぐばこの中にあったツボのりから指でベッタリと塗ったように、しっかり張り付いています。
地上に出ると、歩道の端に色々なかたちのイチョウの葉が重なっていました。
イチョウの葉の真ん中のくびれ部分の個性をいろいろ眺めながら、一応踏まないように避けて歩いてみます。
見上げてみると、イチョウ並木が見ごろのピークを過ぎて、寒さに震えるようにしょんぼりしていました。
通勤途中にイチョウの並木道があるのだけれど、今までどうして気が付かなかったのでしょう。
ピークを見逃してしまいました。
見逃してみると、イチョウの葉が零れ落ちる前のわさわさしたところは、結構好きだったんだなと思いました。
上を見上げて歩いていなくて、猫背になってしたばかり見て歩いていたのかなぁと少し反省したところで、下を向いてたなら、足元の落ち葉に気がつくはずです。
たぶん前の人のリュックに揺れるキーホルダーを見ていたりしながら、ぼんやりと歩いていたのだろうと思います。
思い出のイチョウの話です。
小学生のころ、友達が家に遊びに来てくれたときに、イチョウの花束をくれたことがありました。
落ちているイチョウを拾って束ねただけだけど、大きなキレイなバラのようで、とっても素敵でした。
他の友達の家に遊びに行くときに私も作ってみようと、道すがらイチョウの花束作りに夢中になりました。
キレイなイチョウだけを選別するのに時間をかけすぎたのか、なかなかそのおうちにはたどり着かなかった気がします。
紳士のイチョウに戻ります。
靴に張り付いていたあのイチョウは、紳士の家から駅までの間に張り付いたということでしょうか。
電車の中でもきっと紳士のイチョウは、息を殺して張り付いていたことでしょう。
人混みの中でも、動く紳士のイチョウは目印のように、目立ちます。
つい目で追ってしまいます。
あのイチョウはどこまでついていくのだろう。
剥がれる瞬間を見たいような、見たくないような…
そんなことを考えていたら、またイチョウ並木を見逃してしまいますね。
帰る頃には忘れてしまいそうなふんわりした(べったりした?)出来事だったので、「イチョウ紳士靴かかと」と、こっそりとメモをとるのでした。